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 1904年、アメリカ、ペンシルバニア州で、州知事選挙が行われました。 立候補していたのは3人。現職の州知事、州議会議長、無名の新人です。 選挙戦は激戦になり、現職の州知事と州議会議長は、いかに「自分が有能な政治家であるか」を州民に訴える作戦に出ます。
 そして、当時最も、効果の高い選挙道具が出回り始めていました。 ラジオです。 全州民が自宅にいながらにして、自分の訴えようとしている事を聴く。 当時としては、全く画期的な出来事でした。
 やがて、ラジオでも政見放送が開始されます。 現職州知事は「政治家としての専門的な資質や学歴、政治家としての人となり」を詳しく説明。州議会議長は「これまでの政治歴とその実績」を詳しく説明します。
 そして、無名の新人に順番が回ってきました。
「僕はタバコが好きでしてね。子供と一緒に犬の散歩をするのが一番の楽しみなんですよ」
 などと話し始めます。既に演説を終えていた二人の候補者は、唖然です。
 結局、彼は自分の私生活を延々と語りつづけ、政治に関する事を一言も話さずに演説を終えたのです。
 ちなみに選挙の結果、この無名の新人が圧倒的な勝利を得ます。 これは、いかに「親しみやすさ」が人気と得票に結びつくかを端的に表した事例として知られています。 政治家としての能力は未知数でもです。
 実は、このやり方をフルに利用して、ソビエト最高権力者になった人間がいます。 彼は、端麗なロシア語が使えるにも関わらず、わざと田舎弁で話し、週末には農夫として畑を耕す姿をカメラに撮らせ、それを放送させていました。
 スターリンです。
 知っての通り、後にスターリンは「大粛清」をやらかし、ソビエトに恐怖政治を敷くのですが、この当時政治的には「未知数」なスターリンソビエト国民は「親近感」を持っていました。 で、これは、「イメージ」だけで指導者を選ぶのがいかに危険なものであるかを表していると言えます。