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今までで会った中で最高の食通さんのお話です。
結構な食通として知られている社長さんがいまして、「おいしいふぐの店がある」とのことで、その会社の社員の人4人ぐらいの人と一緒にその店に行った時のことです。 その社長さん。ふぐ刺しを一口食べるなり、「これは、下関・・・いや、徳山のとらふぐだなぁ」などと、ふぐの揚がった所まで、正確に言い出したのです。それだけでも「へぇ、すごいですね。そんな事まで分かるんですか」だったのですが、一緒にいた副社長さんと思しき人が、
「ちなみにこの松茸は京都は丹波、笹山のものに間違いないですね」などと、言い出したのです。さすがにそこまでくると、本当にそうなものかが怪しくなって参りまして、お店の主人が挨拶にやってくる所を見計らって、「なぁ、主人。このふぐは徳山のとらふぐ。松茸は笹山のものだよな」などと、聞いています。「・・ええ、その通りです。さすが、分かっておられますなぁ」と、答えたものですから、一同喝采です。
なるほど・・・本物の食通というものはいるものだなぁ・・・。そう思っていたときです。席の端、その会社の一番若い人がふと、こう言ったのです。「ところで主人。ふぐはまだですか?」全員が、「何言ってんだ、こいつ?」な目で見ています。「はい?ふぐはもう出ていますが・・・」繰り返します。「ところで主人。ふぐはまだですか?」そして、こう続けました。
 「このカレイも大変、美味しいのですが・・・今日はふぐと聞いております。ふぐはまだですか?」急に主人顔が青ざめると、その場で土下座し、「申し訳ありません!」
全員が、「何事!」と、思った瞬間です。
新鮮なカレイは薄く切ると確かにふぐに良く似た味になるらしいのです。 で、時たま、それを「ふぐ」と、言って出す店があるらしいのです。 で、この店がその店だったのです。
 はっきり言って、場は滅茶苦茶になりましたが、私は、「・・・すごい食通だなぁ・・・この人」などと思っていました。
 で、滅茶苦茶になった店を後にし、社長と副社長がタクシーに乗り込むと同時にあの一番若い人を怒っている人がいました。「おまえ!なんて事をしたんだ!せっかくの場が滅茶苦茶じゃないか」まぁ、そういう意見も当然だろうなぁ・・と、思っておりますと「社長も副社長もあんなカレイでもふぐだと思っていたし、あんな「松茸のお吸い物」のパックで香りをごまかしたような中国産の松茸でも、笹山だと思っていたんだ!なんて事をしたんだ!」
 この人は、ふぐだけでなく松茸まで偽物だと見抜いていたのです。しかも、そんな事を言ったら、楽しい宴会がぶち壊しになると、何も言わずにいたのです。これが「本物の食通」か・・・ そんな事を思った今日この頃です。