法政の逆襲22〜底なしの沼〜

京大「ICU…貴様の偉大なる力、私が引き継ごう」
ICU「………?」
京大「ハァァァァァァァ!!!!!」
京大がICUからエネルギーを吸収する。そして、辺りが光り輝く。

ブワァァァァ…

光が無くなると、そこには京大が立っていた。勿論、その姿はおぞましいものであった。
京大の周囲には、ICUに吸収された大学の干からびた死体が落ちていた。
しかし、例外もあった。ICUと同志社同志社女子は干からびてはいなかった。

京大「このタイミングを待っていた。ICUの力を全て手に入れるタイミングをな…」
これを見て、阪大が基地から飛び出してくる。しかし、血を吐いて倒れる。
阪大「ぐはァ…!」
京大「お前を刺したナイフには遅効性の毒が仕込んであったのだよ。
   見込みがあるようならば、解毒を施し、生かしておくつもりだったがね…」
阪大「京大…もはやお前を攻めん…」
あえなく阪大も廃校となった。

周囲の大学は一気に騒然となった。
京大「なかなかシビアだった…。一歩間違えて、ICUを殺してしまったら、全てが終わりだ。
   東大などと組むなど吐き気がしたが、手段を選んでいる場合でもあるまいしな…」
ICU「ううう…同志社同志社ぁ…」

ズンッ

京大はもはや戦う力が残っていないICUを踏みつけ、殺した。
京大「ICUにも悪い事をしてしまったようだ。まぁ、彼に報いるためにも…
   私は彼の遺志を継ごうと思う。この力を得た今、日本の大学は京大だけで充分なのだからな」

周囲の大学は絶望に沈む。しかし、生き長らえた同志社の瞳には光り輝くものが宿っていた。



〜〜
――その頃の千葉大

「・・・俺は、俺って男は・・・」

パイ毛を処理したことをはげしく後悔していた。



〜〜
京大「ふははははは……」

高笑いをしている京大をよそに同志社は何かを決意したような顔をしていた。
同女「同志社さん…」
同志社「ICUの敵をとる」
同女「わかりました。私もついていきます」
愛教「待ってください、私も行きます。静岡の意志を無駄にしたくないわ」
三重「俺も行きます。ICUさんの敵をとってやる」
同志社「みなさん…。ありがとうございます」

一方、京医は神戸の残したナイフをまじまじと見つめていた。
京医「もしかしたら、これで…!」


〜京大の欲望〜
同時に動き出す同志社達と京医。だが、東大がそれを制する。
東大「待て、お前達。ここは私でなければならない…」
同志社「無理です!奴は強い…ICUよりも…」
京医「…私にお任せを!秘策があるのです!」
東大「ここだけは譲れないのだ…頼む、譲ってくれ!!」
東大の必死な姿に一同は言葉を失う。そして、東大は単身京大のもとへ向かう。

東大「京大…これがお前の望みか」
京大「ああ…関東での戦い以来か」
東大「何故私との戦いを望む?」
京大「お前を殺し、京都が…京大が日本一となる!これだけの為に突き進んで来たのだ。
   そのためには何もかも利用する覚悟を決めていた…阪大ですら駒に過ぎなかった」
東大「迷いはなかったのか…?」
京大「あったさ。大いに迷った。事実、つい先程まで、迷っていたのだから」
東大「………」
京大「だが、久々にお前とタッグを組んで確信した。“こいつと戦いたい”とな」
東大「お前との決着は私もつけたかった。が、ここまでする必要はあったのか?はっきり言おう、お前は狂っている」
京大「狂ってなどないさ。“欲望を満たす”…ごく自然の行為と思えるがな…」
東大「しかし、ここまでの犠牲を出す必要はなかった!!」
京大「だが、もし平和な世に、東西の代表である私とお前が決闘などしたらどうなる?結局戦争だ」
東大「………」
京大「もういいだろう。正々堂々決着をつけよう」

お茶の水「ちょっと待って!どこが正々堂々なのよ!!」
中央「そうだ!お前はICUの力を奪いパワーアップしてるが、東大さんは傷ついている!」
東北「京大…そこまで墜ちたか!」
法政「ハンデとして、京大さんには100キロの重りを…」

ゴッ

法政は気絶した。

〜一瞬〜
京大「利用するものは利用する、と私は申したばかりなのだがな。
   道ばたで誰かに襲われた時、近くに棒きれが落ちていたらどうするね?
   武器は卑怯だと、素手で相手を迎え撃つかね?迷わず拾うだろう…棒きれを」
東北「そ、それは緊急の場合じゃないか!」
京大「では、受験生はどうだ?期日が迫っているのに勉強しないバカはいまい。
   勉強すると、公平性が欠けるのか?」
東北「受験と決闘を一緒にするな!」
京大「同じだよ。少なくとも、私には…」
東北「うう…」
京大「私は東大との戦いのため、日夜修行を重ねてきた。そして、反乱を起こした。
   その時、東大と一度戦った。結果は…引き分け」
東北「………?」
京大「普通の方法では勝てない、と悟った。だから、部下、親友、七部神、ICUと様々なものを利用した」
東北「先程の受験を返すが、それはカンニングじゃないか!正々堂々とは言えない!!」
京大「試験ではカンニングは禁止されている。決闘にルールはあるか?
   “他人の力を奪ってはいけない”というルールが!!不正もクソも無い」
東北「しかし…!」
東大「もういい、東北大。私も受けるつもりだ“正々堂々の決闘”をな…」

もはや、誰も水を差すものはいない。東大と京大、二つの大学が向き合った。

京大「行くぞ、東大!」
東大「来い、京大!」


     ドゴッ!!


勝負はその一撃で決まった。


〜〜
 誰もが固唾をのんで見守っていた。
 東大、京大。両者の激突により舞い上がった砂埃により、視界は遮られた。

 京医は神戸と神医の形見を握りしめた。
 同志社はICUの顔を思い浮かべた。
 同女は同志社の手をきつく握りしめた。
 お茶の水女子は一橋に祈った。
 愛教と三重は静岡の微笑みを思い返した。
 慶応は重体の早稲田を気にしていた。
 法政は未だ気絶している。

 そして、そこにいる全員が東大の勝利を祈っていた。


〜無常感の克服〜
やがて、砂埃が晴れていく。中には二人の男が立っていた。
東大「腕を上げたな、京大!」
京大「お前こそな!」

京大の姿は元に戻っていた。今の激突で、ICUから奪った力を失った為だろうか。
東大「またお前と戦いたいな」
京大「そうだな…」
東大&京大「ハッハッハ…!」

一同は唖然とした。引き分け、予想外の結末だった。二人の決着はつかない運命なのだろうか。
しかし、そうではなかった。
京大「どうした…?」
東大「お前の…勝ちだ…」

ドサッ

東大は倒れた。京医がすぐさま駆け寄る。
京医「…!おい、動ける医大は早く来い!!」

生き残ったわずかな医大が東大の周りに集まる。そして、慌ただしく作業を始めた。
医学の専門用語が嵐のように飛び交う。

その中で、京大はただ立っていた。微動だにしていない。
京大「全ての生物には目的がある…それが“死”だと言う者もあるが、そんな事はどうでもいい。
   もちろん、目的を果たせる者は少ない。多くの者は“能力不足”が原因だと思っているだろう。
   しかし、そうでは無い。本当の原因は“目的を果たした時の無常感”への恐怖なのだ。
   それを恐れるゆえ、無意識のうちに手加減をしてしまう。それが原因なのだ…」
静かに、息継ぎもせず、言い放った京大は更に続ける。
京大「私はその恐怖に打ち勝ち、目的を果たした。そして、予想通り私は無常感に襲われている…
   それを消す方法はただ一つ。“次の目的を定める事”しかない…」
京大は周囲の大学を見回し、言った。
京大「貴様ら全て殺す」

〜機械〜
京大はまるで生気を失ったような顔つきだった。そして、ゆっくりと歩き出す。

同志社「同女、俺の後ろへ!」
愛教「何て殺気だ…!」
三重「はっきり言おう、俺は今の京大が一番怖い…」
慶應「早稲田、待っていろ。すぐ終わる」
お茶の水「ちょっと、いつまで寝てるのよ!!」
法政「…ん、ああ…」

京大「何かをやり遂げるとは…かくも悲しいものなのだな」
突如、京大が異様な目つきで襲いかかる。近くの医大達が目に入ってないのはせめてもの救いだった。

京大「まずはお前だ…」
慶應「クッ!」

ガギッ!!

京大のパンチを慶應は何とかガードした。ダメージはさして無い。
慶應(やはり、京大は弱まっている。が、なぜだ!?まるで勝てる気がしない!!)

ドゴン!!

慶應が反撃に蹴りを浴びせる。京大はガードする間もなく、吹っ飛んだ。
中央「さすが慶應さん!」
東海「これは決まりだろう…」

しかし、京大は何事もなかったかのように、立ち上がる。血を流しながら、不気味に微笑んですらいた。
辺りはざわめく。決して強くはないのに、絶望を周囲に与える相手は初めてだからだ。

京医は東大の治療をしながら呟く。
京医「彼の運命は決まっていたんだ…東大を倒したその瞬間に…。
   もう彼は、目的を達するのが目的のマシーンだ…死ぬ事もなく、ひたすら無常感を味わい続ける…」

最終章 〜不死身〜
京大「こんなものか…?慶應よ…」
慶應「クッ…」

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!!!!

慶應は京大を殴り続けた。やがて、慶應は殴り疲れ、京大から離れる。
慶應「ハァ…ハァ…」
京大「どうした?私はまだ生きているぞ」
慶應「バカな…その傷では死んでるはず!」
京大「だが、現に生きている…」

法政「東北さん、一体なぜ!?」
東北「いや、京大の異常なまでの生への執着心が奴を死なせないのだ。信じられん…」

殴られ続け、傷だらけになりながらも笑う京大と、圧倒的に攻めながら、徐々に心も体も蝕まれる慶應
慶應「まさか…不死身なのか!?」
京大「さあな…」
慶應「くそォォォォォ!!!!!」
京大「京都伝統流奥義“応仁の乱舞”!!」

ズドドドォォォォン!!!

慶應「ぐおォッ!!」

慶應が倒れる姿を見て、嘆く京医。
京医「誰も勝てない…少なくとも彼を殺すことは不可能だ。七武神でも無理だろう…
   おそらく、腕を切っても、心臓を吹っ飛ばしても、死ぬまい…」

京大「さあて、次は誰にするか…」
次の標的を満面の笑みで選ぶ京大。その笑みは血まみれ、傷だらけの肉体とは、あまりにもかけ離れていた。

最終章 〜無力〜
京大「お前だ…法政」
法政(おいおい、俺かよ!)
京大「フハハハハ!一介の私立の貴様が私の手で死ねるなど、滅多に無い事だぞ!」
法政のもとへひた走る京大。
法政(ダメだ…死ぬ!)

ガンッ

同志社「法政ィ!!」
お茶の水「いやあああ!!」
三重「もろに顔に入った…!」
東北「しまった―――――」

法政「あれ?」
京大「どうだ!フハハハハ!!」
京大は法政を殴り続ける。だが、その威力は赤子並みと言っても差し支えがなかった。

ガンッ ゴンッ バシッ ドカッ ベシッ

京大「なかなかタフじゃないか…だが、まだまだ!!」
法政「………」
京大「手も足も出せぬか?それも仕方あるまい!」
法政「きょ、京大さん…」

同志社「さっきの慶應への技が、最後の力だったんだ…」
東北「もう京大にあるのは、生への執着のみだ…。法政…」

『 京 大 を 楽 に し て や る ん だ ・ ・ ・ 』

法政「そんな…」
京大「どうした!?まだ死なないか!!」
京大はまだ法政を殴っていた。撫でていた、という方が正しいだろうか。

最終章 〜戦争終結
バゴッ!!

法政のパンチが京大に当たった。
MARCHを解雇された法政と、反乱を企てる京大が出会ったあの日には、かすりもしなかったパンチが当たった。

京大「その程度か!!」
法政(ダメだ…死なないんだ、この人は…)

東北「休むな、攻撃しろ法政!」
法政「無理です!俺には…!」

その時、同志社が法政と京大の間に立った。
同女「同志社、何をするつもり!?」
お茶の水同志社!」
東北「同志社!」
京医「同志社!」
三重「同志社!」
愛教「同志社!」
法政(なるほど、法政と同志社で“報道”というわけか!!)

同志社「京大さん…俺はあなたを許しません。多くの部下を見殺しにし、ICUまでも殺した…」
京大「………」
同志社「ですが、俺は同じ京都生まれとして、あなたを尊敬しています!!」
京大「………」
同志社「あなたは誇りでした…阪大さんや立命館もこの思いは同じなはず!」
京大「………」
同志社「少し、休憩しましょう…」

京大「そうさせてもらうか」

そう言い残し、京大の体は静かに横たわった。



最終章 〜その後〜
京都府立医科大学附属病院―――――
とある二人が同時に目を覚ます。

ガバッ

東大&京大「ここは…?」
東大「あ…!」
京大「な…!」
しばしの沈黙が流れる。そこへ京医が入ってくる。
京医「目が覚めましたか…」
東大「そうか…お前が…」
京大「………」
京医「喋らなくて結構です。今はお休み下さい…」

『先生〜〜〜!!』

京医「ん?」
看護婦「大変です、また早稲田さんと慶應さんが喧嘩を…!」
京医「やれやれ…あの二人も元気な事だ…。では、また後ほど…」
京医は病室を出て行った。

東大「………」
京大「………」
その後、どちらから話しかけたのだろう。どんな会話をしたのだろう。
そんな事は問題ではなかった。この二人がベッドの上で会話をした。それだけで充分ではないだろうか。