0375 - ZEROの法則;法則18

デート中、長電話をされたら絶望的

シチュエーション


 カラオケ店のバイト仲間である男(フリーター・23)と女(17)。女は現役高校生で、見た目、明らかに「いまどきの子」である。
 彼女の明るさと、自由奔放さに惹かれた男は何度か彼女を誘うが、いつも妙に分厚い手帳を見せられ、「最近ちょー忙しいから」と断られていた。しかし、バイト代が入った日、めげずに女を誘い、「奢ってくれるならいいよ」ということで、中華街に行く約束をとりつける。
 そして二人は、中華街に出掛け、1人6000円のコースを食べ終わった……。


男:「炒飯おいしかったね」
女:「うん、ちょー美味しかった。なんか、さらさらしててさ、やっぱ、うちで作るやつとは大違いだよね。あ、電話かかってきた、ちょっとごめんね」
男:「別にいいよ」←にこやかに
女:「もしもし、あ、陽子!? 嘘、あはははは、ちょー久しぶりじゃん!うん、元気だよ! え? あはははははは、そうそう。うん、今? えっとね、中華街。きゃははは、違うって、近所の中華屋さんじゃないよ、横浜の中華街だよ。うん、ほんとほんと、え? なに? 聞こえない? あ、違う、違うよー、あはははは、そうじゃなくて、えっとね、バイト先の人と一緒。うん、そうそう、もう、あんた、後で殺すから。きゃはははは、おめーに言われたくねーよって? ごめんね。あ、そうだ、この間さ、まどかから電話がかかってきてー、なんか、彼氏と喧嘩したとか言ってー、でさ、かけてきたの、夜中の3時だよ。時間考えろって感じだよね。え、嘘!? やっぱな、まどかってそういう奴だよね。あはは、これもなんか、おめーに言われたくねーよって感じだよね。明日? あ、えっとちょっと待って、今、手帳見るから……あ、大丈夫、夕方までバイトなんだけど、夜は空いてるから。うん、じゃあたし、宇多田の新曲唄っちゃうから、え、ううん、そう、まだ出てないんだけど、なんか、ラジオで全部流れたらしくて、もうカラオケに入ってるらしいよ。うん、ちょー早いよね。バイト? そう、まだやってんだよ、あのバイト。なんかさ、前に言ってた店長、この間、あたしに説教してきてさ。ちょーむかつく。なんか、なんか、『森さん、前、掃除しなかったよ? 今度はしっかりやってね』とか言って、はぁ? って感じ。あたし、ちゃんとやったのにさ、なんかー、やってないとか言って、ちょーむかつかない? もうすぐあのバイトやめるから。あたし、有言実行だから言ったらやるからね。次のバイト? 全然決まってない。うん、あはははは、まじでそうしようかな。なんかあたしって、接客業とか向いてんよね。あ、近くに今度ファミレスが出来たんだ。で、そこでオープニングスタッフ募集してたから、応募しようと思ってんの。陽子も一緒にやろうよ。え? 嘘!? まじで? え、聞いたことないよ。そうなんだぁ……コンビニ始めたんだぁ。あたしもコンビニやろうかな。でもさ、コンビニっていろんなこと覚えなくちゃいけないから大変じゃん。ガス料金とか携帯のお金とか、めんどくさくていちいちやってらんないと思う。あ、ちょっとちょっと、聞いて! そうそう、思い出した! あのさ、今度あたし、雑誌に載るの! うん、なんか、渋谷歩いていたらいきなり声かけられてー、『写真撮りたいんですけど』なんて言ってくるからは? とか思って、一応話し聞いてたら雑誌のカメラマンでー、うん、もう、ちょーびっくり。えっとね、再来月号のeggに載るって言ってた。うん、もう絶対買ってね。でも、どうしよう、もし変な顔して写ってたら。きゃはははは、もう街歩けないよね。あ、自意識過剰? あんたに言われたくないよ、あはははは。あ、なんか、瞳もこの間、雑誌に載ったとか言ってた。うん、あの子、スタイルいいもんねー。だって、この間もあたしと一緒にごはん食べたとき、野菜しか注文してなかったもん。うん、まじで。あたし、その前で肉ばくばく食ってさ、あははははは、そうそう、ま、ダイエットしようとは思ってんだけどね、なかなか難しいんだよ。あ、この間、うたばん観た!? そう、あの人、ちょーかっこよかった、なんか、すごい渋くてー」

店員:「あの、ラストオーダーのお時間なのですが、よろしいですか?」
男:「あ、もういいです……」
店員:「かしこまりました。では、ごゆっくり」

女:「え? あ、違う違う、うん、なんかラストオーダーなんだって。うん、ちょー早い。ま、そんなことは別にいいんだけど。そう、それでさ、うたばんに出てた人、名前、忘れちゃったけど、めちゃくちゃかっこよかったよー。なんか、ちょっと妙子の彼に似てた、うん。妙子の彼ってほら、レストランの店長やってる人、そうそうそう、あの時、一緒にいた人! あの人も結構かっこいいよね。この間、ちょっと話したんだけど、声も結構よくてー、なんか惚れちゃいそうになっちゃった、あははは。男? もう、全然駄目。あたし、一生独りかも。なんかさ、あんまり自分としても興味ないし、彼氏が欲しいとかあんま思わないから、まあ、どうでもいいって感じ? 前の彼氏と別れたの? えーと、あれいつだったかな、確かね、2カ月ぐらい前だったと思うよ。うん、そう、なんかー、この間電話かかってきてー、『元気?』とか言ってるから、あたしちょーむかついて、用事があるからとか言ってそっこー切ったもん。うん、ちょーうざい。未練がましいよね。ほんと、あいつと付き合ったの失敗だったよ。もう、携帯も解約しようと思ってんの。だってさ、夜中とかにあいつかけてきてんだよ。3時ぐらい。もう、ストーカーだと思わない? まじで今度電話してきたら、警察呼ぶって言ってやるから。え、なになに、これから? 嘘! いいよ、え、ちょっと待って、ねー、今何時?」
男:「え……8時30分かな」
女:「なにー? ちょっともう一回言って」
男:「8時30分だけど」
女:「あ、ごめんごめん、あ、じゃあさ、9時に横浜駅で待ち合わせしようよ。うん、9時ね、9時。うん、じゃあ、またね! バイバーイ!」
男:「……えっと」
女:「あ、ごめん。あたし、これから友達と会うから、ほんと、今日はありがとう。また誘ってね、それじゃばいばい!」
 ギュイーン ←自動ドアが開く音
店員:「ありがとうございましたー」

 文中に出てくる彼に、掛ける言葉がない。
 彼女が、自分に対し、いかに無関心であるか、そして思い入れがないかをこういう形で知ってしまった彼に未来はあるのだろうか。
 大変残念なことに、彼が「今度、逆の立場に立ったら、絶対長電話してやる」と思ったとしても、

彼女がバイトをやめて音信不通になる

一緒に食事してくれない

食事してくれても、電話がかかって来ない

かかってきて長電話したとしても、なんとも思われない




 という現実を目の当たりにする。
 
 恐らく、こういう女の子(悪く言えば礼儀知らず、よく言えば小悪魔的・食事の誘いにOKしながら、気のない態度を取るというアンバランスさが)をなぜか好きになってしまう男性というのは、それなりの数いると思うが、私は個人的にやめておいた方がいいと思う。
 
 もし、どうしても好きだと言うならば、中途半端が一番いけない。どんな言葉を返されようが、真剣に自分の気持ちを伝えよう。どんなに不器用な言葉であっても、きっと気持ちは伝わるだろう。
 電話切れよ、と言えば素直に切るだろうし、好きだと言えば、それなりの目で見られるようになる(多分)。
 自分のことを好きなのか、人に奢るのが好きなのか、若い子と一緒にいられればいいのか、どうにもわからない態度を取っていては、彼女もそれなりの態度しか返せないのは当然だ。