0369 - ZEROの法則;法則12

会う約束をした日までが長ければ長いほどキャンセルされる率が高くなる

シチュエーション


 ねるとんパーティー(と、今でも言うのだろうか?)で知り合った二人の男女。男は29歳の会社員で、女は27歳のOLである。女はかなりの美人で男をその気にさせる話術にも長けており、男はパーティの席での女との会話、

女「もういい年なのに、わたし、このまま独身なんでしょうねー、多分(笑)」
男「いや、そんなことないですって。加藤さん、綺麗だし、性格もすごく魅力的な方だし」
女「またまたぁ、うまいんだからぁ(笑) そんなこと言ってると本気にしちゃいますよ」
男「ええ構いません、本気です」
女「え、え!? 嬉しい! ありがとうございますぅ。最近、言われたことないから感激しちゃった」←はぐらかし気味に
男「あ、あの、もしよろしければおつき合いしたいんですけど」←いきなり超マジ顔
女「え……」←勢いに押された
男「今すぐに答えて下さいとは言いません。とりあえず電話番号だけ教えていただけますか」
女「……はい……わかりました」←ちょっと黙った後、ひきつり気味の笑顔で

 が忘れられない。そして男は自分の誠意と好意を早速アピールしようと、パーティの翌日、女の家に電話をかけた……。


男:「もしもし鈴木と申しますが、洋子さんいらっしゃいますでしょうか?」
女:「あ……はい、わたしですけど」←昨日とは違って、異様に警戒感を感じさせる声のトーン
男:「あ、加藤さんですか? 昨日のパーティでお会いした鈴木です」
女:「あ、はい……」

 変な沈黙5秒間

男:「あ、あのー、えっと、いきなりなんですけど、加藤さんって休日とかは空いてますか?」
女:「……休日っていうと……土日とか祝日とかですか?」
男:「ええ、そうです」
女:「んー……(沈黙3秒)……一応、休みではあるんですけど……でも、お稽古ごととかに出かけちゃうんで、いつも空いているってわけじゃないです」
男:「ああ……そうですか」←ちょっとひるむ

 沈黙3秒間

男:「あの、もしよろしければ、今度一緒に食事なんかどうかなーって、あははは」
女:「……食事ですか?」
男:「ええ」
女:「……わたし、結構食べられないものあるんですよねー。油っこいものとか全然駄目で、あと生ものも駄目なんですよー」←とにかく、話題に対してマイナス方向に持っていく
男:「あ、でもおそばとかどうですか?」←めげずに頑張る
女:「あー……わたし、そばアレルギーなんです」
男:「ああ……そうなんですか」
女:「……」
男:「……」
女:「……」
男:「なんか好きな食べ物とかありますか?」
女:「……んー、あんまり食べること自体、好きじゃないので……」
男:「ああ……」←(もう駄目じゃん)と思いながらも、とりあえずもう一押ししようと決心
女:「……」
男:「じゃあ、一緒にお茶だけでもどうですか?」
女:「んー……お茶ですか? ……いつ頃?」
男:「あ、えっと、いつ頃がいいですか?」←ちょっと光が射し込んできた
女:「そうですねー……今週は駄目だし……来週も……無理ですねー……再来週はちょっとあれだから……まあ……再来週の次の週の日曜日なら……まだわかんないけど……大丈夫かも……まあ、はっきりとは約束出来ないんですけど……」←ポイント
男:「僕の方は全然OKです! じゃあ、再来週の次の週の日曜日ってことで!」
女:「えっと、ほんと、まだはっきりとは約束出来ないので、予定がわかったら、こちらから連絡します。それじゃまた」
男:「あ、わかりました。それじゃ!」

 今回のケース。女は会う日を3週間ほど先に設定した。お茶を飲むぐらい、その気になれば明日にでも出来ることなのだが、なぜ、こんな先にしたのだろうか。それは簡単。「万全の理由を構築して誘いを断るため、少し時間が欲しい」からである。
 弾みで電話番号を教えたはいいが、付き合う気はさらさらない。しかし、電話で誘われてはっきりとその場で断るのもなんとなく気が引けるし、妙に強気で断って、向こうに嫌がらせを受けるのも困る。それならば、とにかく時間を稼いで、向こうが納得出来る理由を作ってから断ろうという、そういう確信犯的(今風の使い方)な行動だ。
 男は時間が経てば経つほど、期待感で盛り上がっていくのに対し、女の方はいかにうまく言い逃れるかという方法だけが頭を支配する。
 その結末が以下の電話だ。

女:「もしもし、加藤と申しますけど健一さんいらっしゃいますか?」
男:「あ、僕です!!」
女:「あ、どうもこんにちは」
男:「こんにちはー」←ぴあのグルメマップ買って、万全の体制
女:「あのー、今度の日曜日のことなんですけど」
男:「はい!」
女:「ちょっと、突然仕事が入ってしまったもので……」
男:「はぁ……」
女:「無理になってしまったんですよ」
男:「ああ……」←そんな気はしていた
女:「せっかく誘っていただいたのに、申し訳ありません」
男:「いや、仕事ならしょうがないですよね、ははは」
女:「ええ、そういうことなので……」←別の日にしましょうなどは口が裂けても言う気なし
男:「あ、あの、えっと」
女:「はい?」
男:「次の週の連休とかは……」
女:「あー、友達と旅行行っちゃうんで」
男:「ああ……そうですか……」
女:「ほんとにごめんなさい。それじゃ……」←また誘って下さいとは口が裂けても言う気なし
男:「はぁ……」

 ツーツーツーツーツーツーツー←電話切れた

 大変、日本人らしい断り方である。いけるかもしれないけど……駄目かもしれないよ、と伏線を張った末に断るという、ちなみに比重的に言うと、いけるかもしれないは0.1%で、駄目かもしれないよは99.9%ぐらいなのだが、それでも男は、「いけるかもしれない」の方に期待をかける。
 しかし女の方はと言えば、行く気など微塵もなく、次につながる話題を一切振らずに電話を切り、「わたしはあなたに対して興味はない」、という心情をアピールしつつ、電話を掛けさせる動機をなくすというテクニックも駆使し、完璧に男の好意を遮断する。まさにパーフェクトだ。