0370 - ZEROの法則;法則13

デートなどのイベント前後に、タイミングよく女の携帯電話が壊れ、連絡が取れなくなってしまったら、それは拒絶の合図

シチュエーション


 23歳の男(大学生)と20歳の女(短大生)。二人は合コンで知り合ったのだが、男の好意にかなり押される感じで、女は友達として男と付き合っている。
 二人きりで遊びに行くことはあまりなく、大抵はお互いの友達を交えて数人で、という形になっており、女を独占したい男はその状況をなんとか打開したいと思っている。
 男は、女をなんとか彼女にしようと、あらゆるコミュニケーションツールを駆使して必死だが、女からは曖昧な返事が返ってくるばかりで、いつになっても一線を越えられない。しかしある日、電話での「1度でいいから、ちょっと車で遠出してみないか」という、男の強引な誘いに、女はかなり迷いながらも珍しく乗ってきた。だが、その日はそれで電話を切り、男は、その後、約束を早く具体化しようと女に連絡を取ろうとするが、どのコミュニケーションツールを使っても取れず、結局、出かける予定だった日は過ぎてしまう。

 そして、1週間後。

 今までまったくかからなかった彼女の携帯に、ようやくつながった。


男:「あ、もしもし、俺だけど」
女:「あ……はい」←観念したかのようながっかりした声
男:「なんか、全然連絡取れないけど、どうなってんの?」
女:「あー……ごめんなさい」
男:「携帯にいくらかけても、いつも電波が届かないところだしさぁ」
女:「あぁ……なんか、突然、携帯壊れちゃったんですよ。それで修理に出してたから……それで、今日、修理から戻ってきたんです」
男:「壊れたって、どうして?」
女:「なんかよくわからないんですけど……使えなくなっちゃって」
男:「携帯ってそんなに簡単に壊れるもんなの?」
女:「さあ……あたし携帯電話屋さんじゃないんで、その辺はよくわかりません」
男:「ベルにメッセージ入れても、全然返事来ないし」
女:「ああ……ベルもなんか急におかしくてなって……文字が表示されないっていうか」
男:「なにそれ? 電池が切れてんじゃないの?」
女:「いやぁ、電池は入っているみたいなんですけど、文字が表示されなくて……」
男:「そんなことってあるの?」
女:「さあ……」
男:「メールも出したよ。もう10通ぐらいは出した。でも全然返事くれないし。ちゃんと読んでるの?」
女:「あー、なんかいきなりハードディスクが壊れちゃって……。それでインターネットにつなげなかったんですよ。パソコンに詳しい友達に見てもらったんですけど、駄目で……」
男:「ディスクがクラッシュしたっていうこと?」
女:「あたし、パソコンあんまり詳しくないから、その辺のことは全然わかりません」
男:「だって、パソコン買ったのって1年前でしょ? そんな簡単に壊れるもんなの?」
女:「さあ……あたしパソコン屋さんじゃないし……」
男:「家の方にも電話かけて、全然出ないから留守電にメッセージ吹き込んでおいたよ。連絡くれって。それは聴いたでしょ?」
女:「それも、なんか、知らない間に留守電機能がおかしくなっちゃって……。再生が利かないっていうか……ボタン押してもテープが回らないんです」
男:「どのボタンも利かないの?」
女:「ええ……だから、全然聞けないんですよ」
男:「そんな壊れ方するもんなのかな?」
女:「うーん……あたし機械オンチだからその辺のことはよくわからないんですけど……」
男:「アパートに行って、ブザー鳴らしても誰も出てこないしさ」
女:「あー……なんか、この間から、ブザーも接触が悪いみたいで音が聞こえなくて……」
男:「そんなことってあんの?」
女:「あたしにそう言われても……よくわからないので……」
男:「あのさぁ、とにかく……あれっ? もしもーし、聞こえるー?」

 プツッ←急に電話が切れた

男:「あれ? 電波切れちゃった。ったく、しょうがねえなぁ」

 ピッピピピッピピピ←携帯にかけ直している

男:「……」

 数秒後

「おかけになった番号は現在電波が届かないところにおられるか……」

男:「あれ? おかしいな」

 ピッピピピッピピピ

男:「……」

 数秒後

「おかけになった番号は現在電波が届かないところにおられるか……」

男:「なんだよ、また壊れたのか?」

 ピッピピピッピピピ

男:「……」

 数秒後

「おかけになった番号は現在電波が届かないところにおられるか……」

男:「ったく、むかつくよなぁ」

 ピッピピピッピピピ

男:「……」

 数秒後

「おかけになった番号は現在電波が届かないところにおられるか……」

(以下、繰り返し)

 賢明な読者の皆様は、既におわかりだろう。
 女が意図的に携帯電話の電源を切ったということを。
 ずっと連絡が取れなかったのも、本当に携帯が壊れていたからではなく、ただ単に、男の電話を受け取りたくなくて、携帯の電源を切っていたに過ぎない。その他のコミュニケーションツールについても、すべて同様だ。

 男からの過剰な好意を拒みたいときは、とにかく距離を置くということが必要である。
 例えば今回の場合、これだけ気合いの入った男に、二人きりでドライブなんてものに誘い出された日には、ある程度、関係が進むことを覚悟しなければならない。
 女も気があるならまったく問題はないが、別になんとも思ってないし、相手のペースにはまってずるずるいくのだけは避けたいと思っている場合、とにかく相手から受ける怒濤の攻勢を、なんとか避けたいというのは当然の思いだろう。
 この時、変に居留守を決め込むと、いろいろつっこまれた挙げ句に嘘がばれ、しどろもどろになってかなり面倒なことになったりするが、コミュニケーションツールが壊れたということにすれば、「その時は家にいなかった」「携帯を持って出かけなかった」「具合が悪くて出られなかった」など、多量の嘘をつく必要がなくなり、気がかなり楽になる。なにせ、「壊れていたんだからしょうがない」で済ませることが出来るのだ。
 男からの連絡を受けないようにして、相手の熱を冷まさせ、関係の自然消滅に持っていく。
 自分はあくまでも悪く思われたくないという、なんとも女性らしい方法と言えるだろう。