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一昔前のアメリカで
ねずみ男」と、呼ばれたある男のお話です。
この男、画家になりたかったらしいのですが、大変惨めな生活を送っておりました。
なぜ、惨めなのか? なぜなら、お金がないからです。
なぜ、お金がないのか? なぜなら、絵が売れないからです。
とにかくこの男、あまりに惨めな生活をしておりますから、まともな所に住める訳がありません。男の住むこの部屋には昼日中からねずみが大行進しています。なので、「ねずみ男」と、いうあだ名がつくようになります。当然のように近所の人たちは男を馬鹿にし、まともに掛け合ってもくれません。ついには、
「このねずみまで自分を見て、笑っていやがる!」
そんな妄想に取り付かれるようになります。 ・・・はっきり言って、精神的に末期症状です。こうなると思う事は一つです。
「・・・画家なんて、もうやめよう」
今から、町に出て仕事を探そう。そう思って絵筆を投げ捨てようとすると、その姿を見て、あのねずみが自分を見て笑っています。
怒りがふつふつと込み上げてくるのを感じずに入られませんでした。
「どうせ、これで最後だ!」
投げ捨てようとした絵筆に画材を塗りこめ、最後の一作を仕上げます。自分を見て笑うこの忌々しいねずみの絵です。
ねずみ男といわれた自分の最後にはこの絵が相応しいだろ!」
男はこの絵を持って町に飛び出しました。こんな不気味なねずみの絵なんて売れないのは百も承知です。すると・・・この絵がすぐに売れました。
「え?」
家に戻った男は、もう一枚このねずみの絵を書いてみました。また、すぐにこの絵は売れました。この日から、男の生活は一変します。一日一食しか食えなかったのが三食、食べられるようになり、画材も自分の好きなものを買えるようになります。そうなるとあのねずみも
「今の自分があるのもこのねずみのおかげだ」
と、感謝するようになり、彼女まで作ってやりました。そのねずみの彼女の絵まで売れるのです。味をしめた男は、
「何か他にもないか」
窓を開けると、やたらやかましいアヒルがいましたので、それも書きました。さらにやたら気の弱い犬がいましたのでそれも書きました。それたちもがんがん売れます。
しばらくしますと、本屋がやってきました。
「どうです。だいぶん給ってきましたので、これをまとめて、本にして売りませんか?」
「いいですね、それ。」
軽い気持ちで応じます。しかし、この本はアメリカ全土で爆発的なヒットを記録し、やがてこんな歌が流行るようになります。
「♪僕らの楽〜しい合言葉♪ミッキーマウスミッキーマウス。ミッキ-、ミッキーマウス♪」
・・・やがて、人々は彼をあだ名でこう呼びました。
そのあだ名はやはり「ねずみ男」。
本名は、ウォルト・ディズニー