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 何年か前、私はスキンヘッドに憧れていたが、女なので簡単に剃り上げるわけにも行かず
悶々としていた。
ふと、小学校の頃、ちぎった新聞を水溶き糊にひたし、風船に貼って、張子を作ったのを
思い出した。
 これでカツラが作れるのではないか、と急にワクワクした私は、善は急げとばかりに
文房具屋で糊と風船と半紙(新聞の後、半紙で表面を仕上げる)と絵具を買った。
鏡を見ながら頭と同じくらいの大きさまで風船を膨らまし、ちぎった新聞をペタリペタリと
風船に貼った。
 一層目ではまだまだだった風船カツラが、層を重ねるごとに本格的になり、しっかりとして
ある程度の加工に耐えられるレベルになった頃、いよいよだな、と半紙を貼って仕上げに
入った。ここまでに半月かかった。
 十分乾燥させ、頭の形を想定しながら張子をカットし、絵具で自分の肌の色を観察しな
がら色を作り、最後にニスを塗ってテカテカにした。

 完成品をかぶってみたら、多少いびつなでこぼこはあるものの、かなり本気くさい
スキン ヘッドが鏡の向こうからこちらを見ていた。
 あんまりうれしくて、写真を何枚も撮り、カツラも捨てるのが惜しくて大事に取って
おいた。
 結婚して5年。子供が忘れたはずのカツラをかぶっていた。ぶかぶかだった。
慌てて自分の部屋へ行くと、夫がカツラの内部に保管していた写真を見て爆笑していた。
 そのまま飛び出して3時間ほど近所の河原を放浪していたら、血相を変えた父親に発見
され、家に連れ戻された。
 玄関でくしゃくしゃな泣き顔の夫が「ごめん、本当にごめん」と謝っていて、
蒼白な顔の私の両親が「何があったかしらんが、とにかく話し合いなさい」と言った。
カツラにまつわる過去の全てが恥ずかしくて飛び出したのに、さらに大事に発展してて
全ての事情を説明するのも、その場に存在するのも恥ずかしくて死にそうだった。