0347

魔王「ぬぅ、たかが人間こときに我輩がここまでやられるとは」
勇者「人間は確かにちっぽけかもしれない。でも、ちっぽけな中に勇気を持っている」
魔王「のぉ、勇者?」
勇者「なんだ?」
魔王「我輩の手下にならないか?」
勇者「なんだと?」
魔王「それだけの力を持ってるのだ、今、手下になれば世界の半分をやろう」
勇者「まじでっ!?」
魔王「う……うん。まじで」
勇者「やりぃ! なるなる」
魔王「えー? なっちゃうの?」
勇者「なんで? 嘘なの?」
魔王「いや、嘘じゃないけど……なんか、ダメもとで聞いてみただけだからビックリしちゃって」
勇者「だって、世界の半分でしょ?」
魔王「そうだけどさ、なんつーか、ちょっと言ってたことと違うじゃん?」
勇者「なにが?」
魔王「勇気とか……」
勇者「時には引く勇気も必要」
魔王「えー。この土壇場で引いちゃうんだ」
勇者「だって、ここでやられちゃったら、全世界ダメになっちゃうでしょ?」
魔王「まぁ、ダメにしちゃう予定だけど」
勇者「だったら、半分だけでも手に入れたほうが断然お得じゃん」
魔王「そうだけど……」
勇者「人間は、ちっぽけな中に打算をもってるんだよ」
魔王「うわぁ……なんか、嫌な部分見ちゃったな」
勇者「それでは魔王さま、何なりと命令を」
魔王「もう!? なんか変わり身早いなぁ」
勇者「やる時はやる男だよ。俺は」
魔王「やんなかったじゃん……」
勇者「これからやる!」
魔王「あ! ひょっとして我輩を油断させて倒そうって言う作戦?」
勇者「あ〜、ないない。だって世界の半分もらえなくなるもん」
魔王「えー」
勇者「だってさ、例え魔王倒したところで、何にももらえないんだよ? 名誉だけだよ?」
魔王「そうだねぇ」
勇者「だったらさ、なんか欲しいじゃん」
魔王「うわぁ……なんていうか、最悪」
勇者「人間はちっぽけな身体に巨大な欲望をもってるんだぞ」
魔王「人間ひどいな」
勇者「人間のすべてがそうなわけじゃないけど、俺はそうだ!」
魔王「全然、勇者っぽくない」
勇者「今は、魔王の手下だからね」
魔王「なんつーか、ちょっとアレだよね。手下にしても信用できないっつーか」
勇者「あー、寝首をかかれる感じ?」
魔王「うん……」
勇者「その手があったか」
魔王「いや、ないよ! しないでよ!」
勇者「そしたら、俺、魔王?」
魔王「いや、一応さ、勇者じゃん? そういうのちょっとあんまりじゃん?」
勇者「あー、俺、世間体とかあんまり気にしないタイプだから」
魔王「タイプとかじゃなくてさ、そんなのちょっとやだ」
勇者「いいよ。俺が魔王になったら責任を持って全世界を絶望に落とすよ」
魔王「そんな! ちょっと、ひどいじゃん。みんな期待してるのに」
勇者「あいつら、期待するばっかりで何にもしないんだもん、いい気味」
魔王「えー。もうなんつうか、最悪なやつだな」
勇者「俺、最悪だよ? 悪い?」
魔王「うわぁ、開き直ってる」
勇者「自分で言うのもなんだけど、相当、魔王の素質あると思うよ」
魔王「そんな……俺の立場は」
勇者「だいたい、前から思ってたんだよ。やり方が甘っちょろいって」
魔王「ひどい! これでもがんばってきたのに」
勇者「魔王失格」
魔王「うわぁ。なんか、そんなこと言わなくてもいいじゃん」
勇者「お前、今日から俺の部下になれ」
魔王「えー」
勇者「その代わり、世界の半分やるから」
魔王「断る! ……はっ? これがまさか? 勇気? お前は、俺にこれをわからせるためにあえて……」
勇者「ならば、死ねー!」
魔王「違うのかぁ!」

暗転